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目次
――海と川の境目で、命の始まりを守ってきた話――
私は沖縄本島北部、やんばるで生まれ育った漁師です。
物心ついたころから、海は遊び場であり、学び舎であり、そして生きる糧でした。
沖に出て魚を追い、川を遡り、マングローブの根元で生き物を観察する。
私にとって海と川は別物ではなく、一本の線でつながった「命の道」です。
その中でも、マングローブは漁師にとって特別な存在です。
観光では「神秘的」「ジャングルみたい」と表現されますが、
漁師の目から見れば、マングローブは魚のゆりかごであり、海を守る防波堤であり、命の貯金箱です。
私が若い頃、師匠に何度も言われた言葉があります。
「大きな魚を獲りたければ、川を見ろ」
当時は意味が分かりませんでした。漁師は海で勝負するものだと思っていたからです。
しかし、経験を重ねるうちに分かってきました。
海で獲れる魚の多くは、子どもの頃をマングローブで過ごしているという事実です。
マングローブの複雑に絡み合った根は、
小さな魚やエビ、カニにとって最高の隠れ家になります。
外敵から身を守り、流れが穏やかで、餌も豊富。
ここで十分に育った命が、やがて川を下り、海へ出ていく。
そして数年後、私たち漁師の網にかかる。
つまり、マングローブが痩せれば、海も痩せる。
これは理屈ではなく、現場で生きてきた漁師なら誰もが肌で感じていることです。
ここ20〜30年で、海は確実に変わりました。
水温が上がり、魚の時期がズレ、昔は当たり前だった魚が獲れなくなる。
そうした変化の“前兆”は、必ず川やマングローブに現れます。
・稚魚の姿が少ない
・底にいたはずの生き物が消える
・水の色や匂いが違う
漁師は毎日海を見るからこそ、
こうした「数字には出ない異変」に敏感です。
だから私は、マングローブを守ることは漁業を守ることだと断言できます。
魚を獲る前に、魚が育つ場所を守らなければならない。
それが、海で生きてきた者の責任だと思っています。
今、私は漁師でありながら、
慶佐次川でマングローブカヤックのガイドもしています。
それは観光のためだけではありません。
カヤックで川を進みながら、
「ここにいる魚は、いずれ海に出る」
「このカニが土を耕して、森を生かしている」
そうした話をすると、多くの人が驚きます。
マングローブは“見る自然”ではなく、
**“働いている自然”**です。
水を浄化し、土を固定し、命を育て、海を支えている。
地域密着型のガイドだからこそ、
私は机の上の知識ではなく、
漁師として体験してきた失敗や成功、海の変化をそのまま伝えられます。
それが結果的に、
「自然を壊さない観光」
「守るための利用」
につながっていくと信じています。
近年よく耳にする「ブルーカーボン」。
マングローブがCO₂を吸収し、地球温暖化対策に貢献するという話です。
それは確かに大切な視点ですが、
私にとってはもっと身近で、もっと切実な問題です。
マングローブがなくなれば、
魚が減り、漁師が減り、
地域の暮らしそのものが成り立たなくなる。
だから私は、
漁師として、ガイドとして、
この場所の価値を伝え続けたい。
観光で訪れる人が、
「楽しかった」で終わるのではなく、
「守りたい」と思って帰ってくれること。
それが一番の成功だと思っています。
マングローブは、
海でもなく、川でもない。
けれど、そのどちらも支えている。
人と自然の関係も同じです。
利用するだけでは壊れる。
守るだけでは続かない。
その境目で、どう向き合うか。
私は今日もカヤックに乗り、
漁師の目でマングローブを見つめ、
この森が教えてくれることを、
一人でも多くの人に伝えていきます。
それが、
海から生かされてきた者としての、
私の役目だと思っています。