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日別アーカイブ: 2026年2月8日

漁師の視点からのエコツアー

漁師の目で見るマングローブ

――海と川の境目で、命の始まりを守ってきた話――

私は沖縄本島北部、やんばるで生まれ育った漁師です。
物心ついたころから、海は遊び場であり、学び舎であり、そして生きる糧でした。
沖に出て魚を追い、川を遡り、マングローブの根元で生き物を観察する。
私にとって海と川は別物ではなく、一本の線でつながった「命の道」です。

その中でも、マングローブは漁師にとって特別な存在です。
観光では「神秘的」「ジャングルみたい」と表現されますが、
漁師の目から見れば、マングローブは魚のゆりかごであり、海を守る防波堤であり、命の貯金箱です。

マングローブは“魚を育てる場所”

私が若い頃、師匠に何度も言われた言葉があります。
「大きな魚を獲りたければ、川を見ろ」
当時は意味が分かりませんでした。漁師は海で勝負するものだと思っていたからです。

しかし、経験を重ねるうちに分かってきました。
海で獲れる魚の多くは、子どもの頃をマングローブで過ごしているという事実です。

マングローブの複雑に絡み合った根は、
小さな魚やエビ、カニにとって最高の隠れ家になります。
外敵から身を守り、流れが穏やかで、餌も豊富。
ここで十分に育った命が、やがて川を下り、海へ出ていく。
そして数年後、私たち漁師の網にかかる。

つまり、マングローブが痩せれば、海も痩せる
これは理屈ではなく、現場で生きてきた漁師なら誰もが肌で感じていることです。

海の変化は、まず川に出る

ここ20〜30年で、海は確実に変わりました。
水温が上がり、魚の時期がズレ、昔は当たり前だった魚が獲れなくなる。
そうした変化の“前兆”は、必ず川やマングローブに現れます。

・稚魚の姿が少ない
・底にいたはずの生き物が消える
・水の色や匂いが違う

漁師は毎日海を見るからこそ、
こうした「数字には出ない異変」に敏感です。

だから私は、マングローブを守ることは漁業を守ることだと断言できます。
魚を獲る前に、魚が育つ場所を守らなければならない。
それが、海で生きてきた者の責任だと思っています。

観光ガイドとして伝えたい「本当のマングローブ」

今、私は漁師でありながら、
慶佐次川でマングローブカヤックのガイドもしています。
それは観光のためだけではありません。

カヤックで川を進みながら、
「ここにいる魚は、いずれ海に出る」
「このカニが土を耕して、森を生かしている」
そうした話をすると、多くの人が驚きます。

マングローブは“見る自然”ではなく、
**“働いている自然”**です。
水を浄化し、土を固定し、命を育て、海を支えている。

地域密着型のガイドだからこそ、
私は机の上の知識ではなく、
漁師として体験してきた失敗や成功、海の変化をそのまま伝えられます。

それが結果的に、
「自然を壊さない観光」
「守るための利用」
につながっていくと信じています。

マングローブを守ることは、未来を守ること

近年よく耳にする「ブルーカーボン」。
マングローブがCO₂を吸収し、地球温暖化対策に貢献するという話です。
それは確かに大切な視点ですが、
私にとってはもっと身近で、もっと切実な問題です。

マングローブがなくなれば、
魚が減り、漁師が減り、
地域の暮らしそのものが成り立たなくなる。

だから私は、
漁師として、ガイドとして、
この場所の価値を伝え続けたい。

観光で訪れる人が、
「楽しかった」で終わるのではなく、
「守りたい」と思って帰ってくれること。
それが一番の成功だと思っています。

海と川の境目で、今日も伝える

マングローブは、
海でもなく、川でもない。
けれど、そのどちらも支えている。

人と自然の関係も同じです。
利用するだけでは壊れる。
守るだけでは続かない。
その境目で、どう向き合うか。

私は今日もカヤックに乗り、
漁師の目でマングローブを見つめ、
この森が教えてくれることを、
一人でも多くの人に伝えていきます。

それが、
海から生かされてきた者としての、
私の役目だと思っています。